デザインと罫線

グラフィックデザイン(とくにエディトリアルデザイン)における、効果的な罫線の使用法を紹介していきます。

見出しを示す罫線 その1

更新しよう更新しようと思いつつも、
こんなネタで読むひとに伝わってるのかなあ……
と思いながら月日が経過し、
前回の更新が7月、そして今回が5月。
申しわけありません。ひとつ、更新します。

きょう紹介するのは「見出しを示す罫線」です。

まずはこちらをご覧ください。

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さて、この文章のタイトル分かりますか……?
わかりますよね。だって宮沢賢治ですもん。
日本人ならだれでも知ってるこのタイトル。
けれど、僕らはこの作品を知っているからこそ
タイトルがすぐに分かるのであって、
はじめて知るひとにはちょっと不親切です。

なのでちょっと加工してみましょう。

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タイトルを太くしてみました。わかりやすいですね。
他ときちんと差別化されている。
でも、もうひとつ方法があります。

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どうでしょう?
タイトルの横に、罫線を配置するだけで、
見出しであることがいっそうわかりやすくなりました。
しかも、タイトルの太さは本文と同じです。
文字を太くするのか、太くしないで罫線だけ引くのか、
(もちろん文字を太くする+罫線でも良い)
どちらが良いというわけではありませんが、
様々な手法のなかから、
その場に適した表現を選択するべきだと思います。

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書籍での使用例です。(デザインの毎日(毎日新聞社)66ページ)
大きな見出しをさらに強調するために
罫線が引かれているのだと推測することができます。

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また、こんな画像を作ってみました。(文章はWikipediaより引用)
罫線が引かれていることはこれまで紹介してきたものと同じですが、
色がついています。どういう意味かと言うと……

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こういうこと。罫線が強調に加えて
識別」という役割を持ちました。

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首都大学東京
システムデザイン学部2012案内
情報通信システムコース紹介の一部)

実際、これは首都大学東京のパンフレットで
使用されていたものです。
このブログの元となった論文を書くときに
モノクロでスキャンしたので
モノクロのデータしか残ってませんが(^_^;)、
罫線の色によって、通信システム分野の教授なのか
情報システム分野の教授なのかが識別されています。

ちなみにこの「首都大学東京」のパンフレットを
デザインしたのは、工藤強勝氏。
次回は、工藤強勝氏の指定紙に
裁ち落し囲みケイ」と
書かれていたものについて触れます。

コントラストを調整する罫線 「芸術新潮」編

これまで、コントラストを調整する罫線(→関連記事
について紹介してきました。

ここで、雑誌「芸術新潮」(→関連記事)の事例を紹介します。
(スキャンが余り綺麗でなくて、すみません……)

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芸術新潮」の2012年1月号で、
コラム「ぼくの採点症」と
ミュージック三昧」が
巻頭に掲載されるようになりました。
(それまでは、もっと後ろのほうにありました)

 1月号でのデザインは上の画像のとおりです。
本文が、当時発売されたばかりの
游明朝体Pr6R」で、とても上品な印象です。

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2月号のデザインはこちら▲
本文の書体が「游ゴシック体StdM」になりました。
注目したいのが、
下のほうにある茶色の罫線です。

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▲こちらは1月号には見られないものでした。

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▲そして3月号。2月号にあった
茶色の罫線が、本文の上にも配置されました。

アートディレクション
担当されていた日下潤一さんに、
この罫線の意図をメールで尋ねたところ、

頁の独立性を強調するためと、シャープな印象を与えるためです。単数の頁なので埋もれてしまわないようにしたいのです。それとコントラストです。デザインにはコントラストが必要です。コントラストが清涼な印象をつくります。

 とご返答頂きました(原文ママ)。

こういった罫線はなかなか見られないと思います。
とても勉強になる事例でした。
日下さん、ありがとうございました。

コントラストを調整する罫線

文字への下線が、コントラストを
調整していたことは、
前回の記事で触れたとおりです。

さて、こちらの画像をご覧ください。

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ドラフトの「デザインするな」という
本をめくっていたら、
こんな不思議な広告があったのです。
ボディコピーの横に、黒い罫線がある。
では、実験的に
この罫線を無くしてみましょう。
こちら。

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なんだかふわふわと浮いた印象になります。
キャッチコピーと
ボディコピーの間にある余白が、
妙に目立ってしまいます。

つまり、最初にあった黒い罫線は、
紙面下部にある写真の黒味と、
紙面上部にある文字の黒味の
バランスを取っている
と推測できるのではないでしょうか?

ただ、これを「罫線」と呼ぶのか
「面」と呼ぶのかは難しいところ。

なので、どこまでが罫線で
どこからが面なのかを、
ちょっと検証してみましょう。
まずはボディコピーの幅を
元からあった黒ベタに合わせた例。
こちら。

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黒ベタそのものの大きさは
変わっていないため、
罫線と呼ぶことが可能でしょう。

次は、黒ベタを、
元からあったものよりも
少し広げてみた例。
こちら。

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このあたりから難しくなってきます。
「罫線」と呼ぶか「面」と呼ぶかは
受け手に拠るのではないでしょうか。

そして黒ベタとボディコピーの幅を同じ
にしてみました。こちら。

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もうここまで来ると罫線と呼ぶのは難しい。
完全に「面」でしょう。

また、こんな例もありました。

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日本ビクター(現 株式会社JVCケンウッド)の
「GR-C7」というビデオカメラの広告です。
商品の写真が大きいときは、
その下にある罫線も太いのですが、

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商品の写真が小さいときは、
その下にある罫線も細いんです。

こちらも紙面全体のバランスや
コントラストについて
考えられた結果なのだと思います。

下線と傍線 その2

気づいたら、このブログを立ち上げてから1年くらい経ってました。そして今年に入ってからは全く更新していませんでした。すみません。あらためて、こちらに書き記します。

さて。ひとつ前に書いた「下線と傍線」の続きです。
まずはこちらの画像をご覧ください。

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むかしの伊勢丹の広告です。シャープで素敵ですね。

このキャッチコピーの部分に注目してください。
「傍線(ぼうせん)」が引かれていることがわかります。

しかし、前回

縦書きでは「下線」ではなく「傍線(ぼうせん)」という呼び名になり、文字の右側に罫線が引かれます。

と書いたのに対して、これは左側に引かれています。

これはおそらく、

「キャッチコピーと写真の間を区切る」ことで、
写真をより強調していると推測できないでしょうか? 

続いてこちらの画像です。

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大塚製薬カロリーメイト」の広告。
(年間広告美術1986〈美術出版社〉より)

キャッチコピーに下線を引くことによって
文字列を強調する働きがありますが、
これを取り去るとこうなります。

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下線が無いと、なんだか不安定な感じがしませんか?

白めの写真と広い余白の中で、文字が浮いてしまいます。

けれど、この
メインビジュアルを伊勢丹の広告に変えてみましょう。

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なんと! 下線が無いのにもかかわらず
キャッチコピーが安定しました。

けっきょく、キャッチコピーが浮いてしまう理由は、
広告の紙面上下にコントラストが無かったからなのです。
実際に採用された「カロリーメイト」の広告では、
下線が、そのコントラストの役割を担っていました。

下線や傍線が「文字列を強調する」以上の働きを持つことが、
今回の記事でお伝えできたかと思います。

下線・傍線 その1

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 ▲〈図1〉Web上での下線

 

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▲〈図2〉レイアウトソフトで調整をした下線

 

文字列の強調に使われる「下線」も身近に見ることのできる罫線です。しかし〈図1〉のように、Web上の表示や一部のワープロソフトでは文字と下線が密着しており、読みづらい上に美しくありません。〈図2〉はレイアウトソフトで文字と下線の間隔を調整した例です。

 

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▲〈図3〉傍線

 

〈図3〉のように、縦書きでは「下線」ではなく「傍線(ぼうせん)」という呼び名になり、文字の右側に罫線が引かれます。

 

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▲〈図4〉もはや行間の罫線になってしまった下線の例

 

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▲〈図5〉もはや行間の罫線になってしまった傍線の例

 

文字と下線・傍線の間は、少しは離れていたほうが良いのですが、離れすぎると行間の罫線(ノートとかでお馴染みですね)になってしまい〈図4・5〉、「文字列を強調する」という本来の目的を果たさないため、適切な距離を探す必要があります。デザイナーは常に、使用した手法が目的に適っているかどうかを検証する必要があるでしょう。

 

強調目的の下線・傍線は、ワープロソフトで作られた文書には多く使われるものの、書籍や雑誌に使われることは多くありません。『句読点、記号・符号活用辞典。』(小学館)には以下のような記述があります。

 

この用途での下線・傍線は、学習参考書や実用的性格の強い解説書・解説記事などを除いて、書籍・雑誌ではあまり使われない。和文横組みの書籍・雑誌の場合、強調には一般的には圏点(傍点)「・」やゴシック書体が用いられる。また、欧米の書籍・雑誌では、強調箇所をボールド体やイタリック体などに書体を変えて示す方法が一般的にとられている。

(『句読点、記号・符号活用辞典。』〈小学館〉147ページより)

 

圏点については、後に触れる予定です。

カギ型の罫線…ではないけれど

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▲画像出典=『デザインの現場』(美術出版社)2009年6月号24ページ

カギ型の罫線ではありませんが、四辺すべてを閉じないことで開放感を生み、見出しとの繋がりをも生んでいる表組みの例です。図版と図版の間に「+」の記号が示されているようにも見え、デザイン上のアクセントにもなっています。

デザインの現場 2009年 06月号 [雑誌]

デザインの現場 2009年 06月号 [雑誌]

 

 

カギ型の罫線 その6

最近見つけたので
論文に取り上げなかった罫線です。
ただこれは「好みの問題」と言われても
仕方ないかもしれないのですが、
事例として面白かったので紹介します。

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▲画像出典=『もう一度、ごちそうさまがききたくて。』(栗原はるみ・美術出版社)
6ページの全体

▲▼数字の部分にカギ型の罫線が使われています。
ページのいちばん上から伸びていることが
安定感に繋がっています。

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▲画像出典=『もう一度、ごちそうさまがききたくて。』(栗原はるみ・美術出版社)
6ページの一部分


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▲画像出典=『もう一度、ごちそうさまがききたくて。』(栗原はるみ・美術出版社)
6ページの罫線を加工したもの。

▲上から伸びなくても問題はありませんが、
ちょっと安定感に欠ける気もするのは気のせいでしょうか。


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▲画像出典=『もう一度、ごちそうさまがききたくて。』(栗原はるみ・美術出版社)
6ページの罫線を一部無くしたもの。

▲罫線を無くしてみたパターン。
これはちょっとふわふわとしていますね。
引き締まりが足りない感じです。


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▲画像出典=『もう一度、ごちそうさまがききたくて。』(栗原はるみ・美術出版社)
6ページの罫線を加工したもの。

▲縦の罫線だけにしたパターン。
どうしてあるのか分からない感じ。


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▲画像出典=『もう一度、ごちそうさまがききたくて。』(栗原はるみ・美術出版社)
6ページの罫線を加工したもの。

▲横の罫線だけにしたパターン。
これはけっこうアリかもしれません。

しかし、罫線を紹介するのは難しいですね。
線が細いので見えてない
モニタもあるのではないかと心配です。